はじめに

R/3 では、本番システムの安定稼動を確立するため、開発、テスト、本番の3システムからなる 環境を推奨している。このような一連のシステムをまとめてランドスケープと呼んでいる。

このように一連のシステムをその用途で分割する必要があるのは、データベースの構造と R/3 の動作が関係している。
R/3 では1システムは1つのデーターベースを持ち、それをクライアントと呼ばれる論理的な 単位に分類し極力データの競合が起こらないように設計されている。 ただしデータベースに直接働きかける「テーブルの作成」やシステム全体で利用している 「ドメイン」「データエレメント」などのリポジトリや、一部のカスタマイズデータ(カレンダ、 少数点設定)はクライアントとは関係なく共通のデータとして登録されている。

クライアント非依存データ

クライアント非依存データは後述のカスタマイズ・オーガナイザにより管理を行う。

クライアント依存データ

クライアント依存データはワークベンチ・オーガナイザにて管理する。 リポジトリオブジェクトは作成した環境から更に次のように分類されます。 これらのデータを矛盾なく他のシステムにコピーし、設定することを移送とよび、 そのうち SAP 社が提供する2種類については、特別な名称がある。 いずれのデータもインポートと呼ばれる手法にてターゲットシステム(つまりテストシステム や本番稼動システム)に反映させる。

ランドスケープの構成

R/3 では開発、テスト、本番の3種類の環境をまとめて、「システム・ランドスケープ」と呼ぶ。 ランドスケープはサーバの構成から次の4種類に分類される。
  1. 単一システムランドスケープ
    開発、テスト、本番がすべて1つのシステムで稼動しているもの。

  2. 2システムランドスケープ
    開発、テストに1システム、本番環境に1システムを割り当てたもの。
    この場合、移送に関するテストができない。

  3. 3システムランドスケープ
    SAP が推奨している構成

  4. 複雑なランドスケープ
    開発が複数のシステムで行われるような複雑な環境
この資料では3システムランドスケープを例とし、開発、テスト、本番システムの システム名はそれぞれ DEV, TST, PRD とする。

移送の準備

移送を行うにはランドスケープの全てのシステムで以下の設定を行う。 今後この資料は特に指定しない限り3システムランドスケープを対象とし、開発・テスト・本番 の各システム名はそれぞれ DEV、TST、PRD とする。
  1. 共通移送ディレクトリ
    移送作業で利用されるディレクトリで、全システムが共通のディレクトリを参照できる ように設定しておく(UNIX なら NFS、NT なら Share による)。
    ディレクトリは \usr\sap\trans で、サブディレクトリ構成は次のようになる。
    サブディレクトリ名格納されるデータ
    binTPPARAM の格納場所
    dataExport されたデータファイル
    cofiles移送依頼に関するコマンドファイル
    log移送ログファイル
    actlogアクションログファイル
    buffer移送バッファ(システム間の移送記録)
    sapnames各システムユーザに対する移送依頼情報
    tmp一時データ

  2. TPPARAMの編集
    ランドスケープの構成などを記述したファイルで、tp コマンドが参照する。
    ファイル名は \usr\sap\trans\bin\tpparam である。
    例:
    	# NT System TPPARAM
    	# default params
    	transdir = \\system01\sapmnt\trans
    	dbnmae   = $(system)
    	allog    = ALOG$(syear)$(yweek)
    	syslog   = SLOG$(syear)$(yweek).$(system)
    
    	# for Development system. ID is DEV
    	DEV/dbhost = system01
    	DEV/impdp_by_event = yes
    	DEV/sapevtpath = \\system01\sapmnt\$(system)\SYS\exe\sapevt.exe
    	DEV/system_pf  = \\system01\sapmnt\$(system)\SYS\profile\DEFAULT.PFL
    
    	# for Test system. ID is TST
    	TST/dbhost = system02
    	TST/impdp_by_event = yes
    	TST/sapevtpath = \\system02\sapmnt\$(system)\SYS\exe\sapevt.exe
    	TST/system_pf  = \\system02\sapmnt\$(system)\SYS\profile\DEFAULT.PFL
    
    	# for Production system. ID is PRD
    	PRD/dbhost = system03
    	PRD/impdp_by_event = yes
    	PRD/sapevtpath = \\system03\sapmnt\$(system)\SYS\exe\sapevt.exe
    	PRD/system_pf  = \\system03\sapmnt\$(system)\SYS\profile\DEFAULT.PFL
    
    この例では3システムランドスケープ構成である。

  3. 「ワークベンチオーガナイザ設定」(SE06)
    Client 000 にユーザDDIC でログオンし、SE06を起動する。
    システム設定をランドスケープに合わせる。

  4. システム変更オプション
    [Sys.ch.option] ボタンを押し、システム変更オプションを指定する。
    変更オプション意味
    オブジェクト変更不可全くオブジェクトは変更できない。 TST、PRD システムはこの設定が望ましい
    オリジナルオプジェクトのみそのシステムで登録されたオブジェクトは修正可能。 移送されてきたオブジェクト(R/3本体を含む)は修正できない。
    全ユーザオブジェクトSAP 標準オブジェクト以外は修正可能。 DEV システム用
    全オブジェクトR/3 本体を含め、全てのオブジェクト 修正可能。DEV システム用

  5. 移送レイヤ
    移送レイヤは開発システムからテストシステムへのデータの流れを定義するもので、 SE06 の [移送レイヤ] ボタンで参照、更新できる。
    3システムランドスケープの場合は次の3エントリが必要
    レイヤ名意味
    なしLocal Loopback 相当
    SAPSAP システム用
    ZSID移送用(SID は開発システム名)

  6. デリバリパス
    デリバリパスはテストシステムから本番システムへの流れを定義している。
    • デリバリシステム名
      本番システムの名称を指定。この例では PRD となる
    • デリバリ元
      テストシステムの名称を指定。この例では TST となる。

クライアントの作成とコピー

R/3 全体の環境を整えるには、まず新規にクライアントを作成し、 既存のクライアント 000 または 001 をコピーする。
変更はこの時作成した新しいクライアントを用いること。

クライアント作成

クライアントは「クライアント変更」(SCC4)にて作成する。
このとき、クライアント依存、非依存データの更新属性を定義する必要がある。
Client 000 は変更しないこと